2014年8月7日木曜日

藤原近衛秀國

近衛秀国
君臣豊楽
―我が誉はらか成るの為に―

 関西を支配する畿内軍閥(大日本皇国政府)の指導者。豊臣氏の末裔であると同時に、北朝天皇家(持明院統)の血をも継いでいる。
 近衛家は、九条・二条・一条・鷹司と共に鎌倉時代以降の摂政・関白を輩出した藤原氏五摂家の一門であり、特にその筆頭的存在であった。第二次大戦後、南朝(大覚寺統)の元化天皇とこれに取り入る鷹司家の台頭、そして迫り来る共産革命を危惧した近衛家の元首相は、宮中を追われた旧皇族を密かに養子とし、自家と北朝の安泰を図った。「羽柴宮」などと呼ばれたその皇族については生没年を含めて謎が多く、実在を疑う説もあるが、この人物の嫡男(あるいは親族)に近衛秀国がいた事は確かである。

 日本人民共和国の支配下において、義祖父・父親から託された「国体護持」を第一の使命とする秀国は、西宮堯彦(元化天皇の子)のように派手な反乱は起こさず、かといって体制への迎合もせずに、ひたすら武芸を磨きながら雌伏の時を過ごした。しかし、養育者である近衛和泉は、特技の催眠術と色仕掛けで政府高官を篭絡し、中華ソビエト共和国の軍部対日部門を率いる徐秀全に助力を求めた。徐は、日共政府の体制が将来的に行き詰った場合、埼玉の星川初に反乱を起こさせる構想を計画していたが、星川だけでは列島全土を掌握できないという難点があった。こうした中で、自分達の利用価値を必死に訴える近衛の存在は、日本支配で功名を得たい徐にとっても魅力的であり、しかも和泉が美人だった事も幸いし、支援を密約した。

 未来30(光復元)年、徐秀全は近衛と星川に対し、近い内に大災害が起こる事と、それに乗じて日共政府に造反すべき事を電報する。果たして小惑星衝突が現実になると、大坂・京都で挙兵し、両地域を制圧した。同じ頃、関東でも星川が日共軍を駆逐したが、米軍に支援された日基建が先んじて東京を掌握した。東京政府は立憲帝政を決定したが、南朝の雲母日女を皇帝として即位させたため、北朝天皇制復活を目指す近衛とは相容れない存在となった。だが、米中両国の妥協による光復停戦協定により、日本を含む東亜の現状維持が合意されたため、全面戦争の危機は先送りという形で回避された。

 中共首脳は、星川と近衛のどちらを承認するかで意見が分かれ、政府内での権力闘争を巻き込む事態となった。東京政府に融和的な共産主義青年団(改革派)は星川を支持し、徐秀全も駐日大使として大宮に送られた。一方、東京政府への強硬外交を主張する太子党・上海閥(守旧派)は近衛と手を組んだ。

 秀国は大日本皇国の復活を宣言し、平安京を首都とする独自の国造りに着手した。家臣の羽柴秀為は若狭を抑えて海路を確保し、三好秀俊は信貴山城・東大寺を拠点に大和を領内に組み入れた。こうして、皇国政府は「畿内軍閥」という通称で知られるようになった。その後も、和泉の外交力に助けられて関西の諸軍閥を次々と征服して行き、日本のアレキサンダーとかナポレオンなどと勇姿を謳われた。

 三種の神器(剣・鏡・勾玉)を模した装備をしており、剣道と馬術に長け、自ら戦場に赴く事もある。領民政策においても体育教育、特に武道を積極的に奨励している。道場や学校などの公共施設にしばしばお忍び訪問し、稽古の相手をしたりスポーツに戯れるなど、皇族である事を威張らない民衆寄りの姿勢は好感を呼んでいる。特に、「秀国様に勝って天下を取る!」と毎回熱心に試合を求めに来る空道家と仲が良かった。

 21年、光復停戦協定の失効により東京政府との対決が不可避となると、苗字を「豊臣」に改めて天下を狙う気概を示し、中共の支援で新型戦闘機などの軍備を整えた。しかし、東京政府は遺棄されたはずの決戦兵器「イザナミ」を起動して北太平洋から弾道ミサイル攻撃を行い、大坂湾の畿内軍艦隊は壊滅的打撃を受けた。

 八月事変では、失地回復のためクーデター勢力に加担し、小牧長久手に侵攻して東海鎮台軍と戦うが、事変の背後に物の怪と化した和泉(方広院)の怨念があると宇喜多清真から報告を受け、戦闘を停止した。

 事変後、首相に就任した吉野菫は日基政権の地方分権を更に進め、秀国は関西州政府首相に任じられて高度な自治権を保障されるなど、厚遇を受けた。

 やがて、日本帝国が共和制に移行すると、西宮堯彦は帝政存続のため平安京に独立国家を建てた。秀国もこれに協力し、南朝及び鷹司家との和解を果たす。そして、後嗣不在の西宮帝から皇位継承者に指名され、禅譲を受け「豊国天皇」として即位した。ここに悲願の北朝復辟が成就し、以後、平安京国は「東洋のバチカン」として、世界最古の王朝たる伝統と誇りを後世に守り継いだ。天皇は「日本国君主」ではなくなったものの、その祈りは天地神明のみならず、全ての日本民族、ひいては全人類に対して向けられ続けている。
近衛秀国

0 件のコメント:

コメントを投稿