メシア暦2016年3月1日、火曜日。今年もまた、卒業と別れの季節がやって来た。思えば私もつい数年前は、中等学校の生徒であった。先日、私の母校である大森貝塚中等学校で、生徒が授業で創った作品などを飾る展覧会行事が、小規模ながらも開催された。卒業生である私も、特に予定がなかったので、これを機に見に行く事にした。「大森」という地名の通り、東京市とは思えない台地上の山林に、我が母校はある。何度訪れても、やはり懐かしい景観だ。今年度の展覧会では、卒業生らによるプラネタリウム上映企画もあるという。なんとなく想定してはいたが、果たして会場の教室に到達すると、そこには「彼女」がいた。
星河亜紀
「本日は冬の星座を…あら、久し振りねぇ。まだ生きてたの?」
十三宮幸
「あ!あ…あああ亜紀さん?そんな、まだ死んでなかったの?」
星河亜紀
「もう…勝手に殺さないで頂戴。貴方を殺すわよ?」
十三宮幸
「亜紀さんも、この学校には思い入れが深いんだね」
星河亜紀
「貴方に言われるまでもないわよ。ヒトは、記憶から逃れられないの」
十三宮幸
「ところで亜紀さん、そこに展示してある鉱物って…誕生石?」
星河亜紀
「そうよ。ザクロ石・紫水晶、それにブラッドストーン」
十三宮幸
「ブラッドストーン?あ、思い出した!僕らがここの生徒だった頃、亜紀さんに教えてもらったような気が…」
星河亜紀
「ええ、あの時の碧玉よ。貴方も少しは、物分かりが良くなったじゃない。私達の思い出も、この中に刻み込まれているかも知れないわね」
私がその誕生石を凝視した刹那、年上の男性?らしきお客さんが声を発した。
落合航
「サザンクロスは大森から見えないから、プラネタリウムで観る!ん…あれ、この遺影みたいな写真に映ってる少女は、もしかして…」
星河亜紀
「本校の卒業生で、私やこのヒトにとっても、大切な親友です。名は…」
亜紀さんに続いて、私も反射的に口を開いた。
十三宮幸
「彼女の名前は、十三宮仁(とさみや めぐみ)さんって言います」
思い返せば、それは甘く切ない夢物語。当時、この学校の一年生だった私は、幼馴染みの仁さん、そして不思議クール系な亜紀さんと同じクラスに在った。
ニミッツ級航空母艦「マーシャル」
「じゃあ、今日のイングリッシュはここまで!またね☆」
どう見ても空母なのに、何故か英語教諭をやっているマーシャル先生の授業が終わり、昼休み。私はいつも仁さんと一緒にご飯を食べるが、孤独を愛する亜紀さんは、どの班にも入らずに居た。そんな彼女に、仁さんが声を掛ける。
十三宮仁
「あっちゃんはいっつも一人っきりだね?」
星河亜紀
「貴女達も、いつも二人っきりね」
十三宮仁
「でもね、あっちゃんは寂しくなんかないの!だってね、めぐちゃん達が一緒に居てあげるんだもん^^」
星河亜紀
「どういう意味よ?」
十三宮仁
「私達三人で、一緒にご飯食べようよ!あなたも、いいでしょ?」
十三宮幸
「あ…亜紀さんと?まあ、仁さんがそう言うなら…」
星河亜紀
「仕方ないわねぇ…好きにしなさい」
十三宮仁
「あっちゃん、その宝石なあに?とっても綺麗だね^^」
星河亜紀
「これはブラッドストーン、今月の誕生石よ。二酸化珪素の石英に酸化鉄の不純物が混入した碧玉で、インド産の物が有名よ。ローマ帝国では、天体観測鏡に使われたとか」
十三宮幸
「相変わらず、亜紀さんはそういう話に詳しいなあ…名前の由来は?」
星河亜紀
「この赤い斑点は、十字架に磔られた救世主の血とかいう伝承よ」
十三宮仁
「そうなんだね!やっぱりあっちゃん、凄いね^^」
そう言われて、亜紀さんは少しだけ微笑んだ。私達三人は、地元の小さな私塾にも通っていて、あの年の3月1日は確か、数学講師が別の奴に変わる時期だった。彼女達と、その未来を守り抜く…それが私と友との約束だと、胸に誓った。
星河亜紀
「放課後から塾まで、少し時間があるわね。どこか寄ろうかしら?」
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