小惑星の衝突は、今回が初めてではない。30年前にも、同じような悲劇があった。あの時も、予測されていなかった小惑星が突如として飛来し、分裂した隕石雨は、地球世界を混沌に陥れた。私達の日本列島も、複数の国家に分裂し、血で血を洗う戦乱が繰り返された。
あれから30年の歳月が過ぎ、長きに及んだ内戦は終結に向かった。年号も改元され、私達はようやく、平和な新時代を迎える事ができた。来年には、東京五輪の開催も決定していた。その夢は、無惨にも砕け散ったのだが…。
今回の小惑星は、30年前とは異なり、人類文明の存亡を脅かすような質量ではなかった。しかし…私達にとっては、それだけでは済まされなかった。この小惑星は、東京の範囲を丸ごと壊滅させる規模であり、その解析通り…この小惑星は、ほかでもない東京に衝突したからである…。
8月4日、日曜。私・十三宮幸は、大森・蒲田の学生が結成した義勇軍「アプリコーゼン(Aprikosen)中隊」の指揮官を務めている。彼女らの教官だった顕(Aquila)先生が、昨年2月に首都圏を襲った「人狼事変」で戦死した結果、教会騎士団からの推薦もあり、私が正式に隊長を引き受ける事になった。彼女達は、私にとっても大切な後輩であり、現在のアプリコーゼン中隊が結成される以前から、協力して任務を遂行する機会があり、その頃から「先輩」「隊長」などと呼ばれていたので、人選自体に問題は無い。問題は、私達が直面している現状である。
今、アプリコーゼン中隊の生存者は、私を含めても3人しか居ない。その一人…第四歩兵副隊長の斎宮星見(さいぐう ほしみ)が、江ノ島から太平洋を見詰めている。
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