2015年9月12日土曜日

『Planet Blue macrocosm』第2節「埼京一和」

まころ
この家に来てから、家族として一緒に暮らしている十三宮仁(めぐみ)さん。
まころ
今日は埼玉から、幼馴染みの星川結も遊びに来る予定だ。
羽津
仁さんと結と達三人の友愛は永久に続くと信じていた…。


光復13年、東京府東京市大森区。

十三宮
「…あなたは、誰…?」

十三宮仁
「めぐちゃんだよ」

十三宮
「あれ?」

まころ

十三宮仁
「おはよう!」

十三宮
「あ、おはよう仁さん」

十三宮仁
「どうしたの?なんか、疲れた顔してるよ」

十三宮
「姉さん達と出会った時の夢を見た」

十三宮仁
「姉様と?じゃあ、めぐちゃんも夢に出て来た?」

十三宮
「いや、そこまでは覚えてない」

十三宮仁
「そうなんだ…夢の中でも、君と一緒にいたかったな…」

可愛い事を言ってくれるなあ。

十三宮
「まあ、いいじゃん。こうして、今ここにいるんだから」

まころ

十三宮仁
「そうだよね!」

彼女は、私にとって義理の双子のような存在に当たる、仁さん。
「仁」と書いて「めぐみ」と読む、面白いネーミングだ。
私を拾ってくれた姉さん達の妹で、私とは同い年。
私に明確な好意を抱いてくれていて、「あなたのお嫁さんになる!」なんて言ってくれる、
大切な家族。
そしてここが、私が住む事を許された十三宮家。
「十三宮」と書いて「とさみや」と読む、やっぱり不思議な苗字。

日本帝国の首都である「東京市」は、いくつかの「区」によって成り立っているが、
南東に「大森区」がある。
日本考古学の起源である縄文時代後晩期の「大森貝塚」で有名だが、
その遺跡の近くに自宅がある…まあ、当時の私は初等学校三年生だから、
そんなに細かい郷土地誌は知らなかったが。

十三宮聖
「あら、弟君。おはようございます」

十三宮
「おはよう、姉さん」

私は聖姉さんの養子あるいは義弟として、この家のお世話になっている。
彼女達がいなければ、今頃私が生きていたかどうか分からない。

十三宮聖
「こうして毎日あなたの元気な姿を見られて、お姉ちゃんは幸せです」

十三宮
「姉さんのお蔭だよ」

十三宮聖
「うふふ…『お姉ちゃん』って呼んでもいいんですよ?」

十三宮
「お…お姉ちゃん」

十三宮聖
「きゃ~っ!可愛い~!」

十三宮
「い…いきなり抱き締められたら、照れるよ」

十三宮聖
「家族なのですから、いいじゃないですか^^」

十三宮
「まあ、そうだけど…」

姉さんは物凄く優しく、そして物凄く過保護である…混浴と添い寝を何度強要されたか分からない。

十三宮聖
「こうやって触って見ると、あなたが少しずつ、成長して行くのが分かります」

十三宮
「姉さんに拾ってもらったのは、何年前だっけ?」

十三宮聖
「あなたとの出会いは、六年前…光復七年の事でしたね。
天災と戦乱で、多くの方が悲しい思いをされた年でした」

十三宮
「ああ、そうだったね…」

小惑星衝突から6年経った光復7年、当時の日本は各軍閥の指導下に、
着々と復興を進めていた。
しかしこの年、関西では南播磨地震(坂神淡路大震災)、
そして東京では過激派団体「邪馬台国」による毒ガス化学兵器テロが起き、
多くの死者が発生した。
当時、畿内を統治していた大坂の近衛秀国は、
山城平安京の近衛和泉と共に被災者救助に尽力し、
それまで敵対していた山陽地方の宇喜多清真(きよざね)とも和睦し、人々の心を掴んだ。
それから折り返し6年経った光復13年現在、
彼らは関西全域を支配する「大日本皇国畿内軍閥」に成長し、
天下を巡って日本帝国東京政府と真っ向から対立している。

十三宮聖
「日本は未だ、群雄割拠の天下が続いていますが、あの頃に比べれば、
世の中も落ち着いて来ましたね。二十一世紀は、どうか平和な時代になって欲しいものです」

十三宮勇(いさみ)
「随分と呑気な事を言ってるわね。海外じゃ、米英がアフガンと戦争中だって言うのに」

聖姉さんの双子、勇姉さんがやって来た。
甘々な聖姉さんと対照的な、文字通りクールな人である。

十三宮聖
「そうですね…我が国に戦禍が及ばないと良いのですが」

20世紀は戦争と革命の時代だった、だから21世紀は…という人類の切実な願いは、
「イスラム原理主義」を標榜する国際テロ組織によって台無しにされた。
アメリカ連邦や中華ソビエト共和国を始めとする国際連盟の大国は、
テロ集団を撃滅するため協力する事で一致し、独裁政権下のアフガンに対し、
多国籍軍による解放作戦が開始された。
このため日本でも、米国と同盟する東京政府と、中共から支援される星川軍閥の関係は、
一応の平静を保っていた。

十三宮勇
「まあ、米中が日本の軍閥を抑えている限り、大袈裟な事にはならないわ。
後は、東京と星川の関係次第ね」

十三宮仁
「そう言えば今日は、結ちゃんが遊びに来るんじゃなかったっけ?」

十三宮勇
「あら、そうなの?」

十三宮
「ああ、そうだったね」

今日は、幼馴染の星川結が泊まりに来る予定だ。
幼馴染と言っても、文字通り幼い頃に一緒だっただけで、今となっては、私は東京に、
彼女は大宮に暮らしている。
しかし、結は十三宮家の事が相当好きらしく、暇があればうちへ遊びに来る。
反対に、私達のほうから会いに行く事もしばしばである。

十三宮聖
「結ちゃんは食いしん坊ですから、お料理とお菓子を沢山用意しないといけませんね^^」

十三宮勇
「家族が全滅した挙句に、あの『大宮の女帝』の娘さんと幼馴染だなんて、
あなたの生まれ育ちって本当に数奇ね」

十三宮聖
「こら勇、不謹慎な事を言ってはいけません」

十三宮勇
「はいはい」

「まあ実際、もどうして彼女と幼馴染なのかって、時々不思議に思うよ(笑)」

十三宮聖
「さて、そろそろ法王様が御言葉を述べられる時間です。皆さん、画面の前にお座り下さい」

十三宮仁
「はーい!」

十三宮勇
「今週は多分、きっとあの話ね」

光復帝
「臣民の皆様、おはようございます」

聖姉さんに言われてテレビのほうを見ると、綺麗な女性が映っている。
この方が日本帝国の君主、女帝陛下である…まあ、
当時の私には「お姫様」にしか見えなかったが。
帝(みかど)は国家元首であると同時に、日本国教会法王でもあり、国教会に属する我が家では、毎週この日時に、中継番組を通して帝のお話を聴くのが習慣だ。

光復帝
「既に周知の如く、世界は今、暴虐なる国際テロリズムの脅威に晒されております。
各国が協商し、この赦すまじき悪の枢軸を、誅滅しなければなりません。
予に従う帝国各州政府は、先の米国における重大事件を対岸の火事などとはゆめゆめ思わず、想定されるあらゆる可能性に備え、戒厳を強化して下さい。
殊に、首都圏の治安は天下の趨勢に直結します。関東州政府及び各県令、そして臣民の皆様が、それぞれの使命を自覚して行動される事を、切に願っております」

正直、毎週こういう話を聴かされるのはめんどいのだが、それでもこの番組は楽しい。
だってこの「お姫様」、超美人なんだもん(笑)

光復帝
「予は全ての臣民を心から愛しております。天主のご加護がありますよう」

この台詞と笑顔がもう堪らない(*´∀`*)

武蔵県大宮市、寿能城。
七月革命で星川軍が占領した武蔵県・前橋県は「日本民主共和国」を称し、
それ以外の関東平野を統治する日本帝国とは別の国家になっている。
つまり、関東には「日本」という国が二つある。

星河亜紀
「あーもう、本当にあの皇帝って偉そうでムカつくわね!そんな事より結、起きなさいよ。結!」

星川結
「ふぁ~、ねみいよー」

星河亜紀
「今日は、大森貝塚の近くにある『なんとか教会』に行く予定じゃなくて?」

星川結
「あー、そうだったな。おい母ちゃん、手下共に朝飯作らせろ!」

星川初
「おはよう、結。ご飯ならもう出来てるわよ」

星川結
「おう、ありがとなw」

結は、「大宮の女帝」こと日本民主共和国総書記、星川初の長女。
私を拾ってくれた十三宮教会は、星川家とも交流があり、
幼い頃から私を可愛がってくれた総書記は、私にとっては義理の母である。
また、星川一族には大宮本家のほかに、
東京で暮らす親戚の分家(星川南家・江戸星川家)があり、
「星河」という旧字体の苗字を使って区別している。
南家の長女が左の星河亜紀で、私や仁さんと同じ初等学校に通っているが、面倒な性格で、
会話する機会は少ない。

上杉橄欖
「お嬢様はお出かけですか、総書記?」

星川初
「ええ、今日も聖ちゃん達の所に行くみたい」

上杉橄欖
「また十三宮ですか。あの教会は異端だと思いますが…」

星川初
「まあ、細かい事はいいじゃない。それに、あそこには私の可愛い子もいるのよ。
仲良く遊ばせてあげなきゃ」

扇谷上杉橄欖は、日本国教会司祭でありながら東京政府に従わず、
星川共和国の政務長官として、母さんの最側近を務めている。

星川結
「よう!結様が遊びに来てやったぜw」

十三宮
「来たか、結」

十三宮仁
「おはよう、結ちゃん!」

十三宮聖
「おはようございます、結ちゃん^^」

十三宮勇
「今日も無駄に元気そうね、結」

星川結
「スライダーの新作を持って来たぞ!一緒にやろうぜw」

十三宮
「またゲームか。お前はそれしか頭にないな」

十三宮仁
「めぐちゃんも一緒にやる!ゲームが終わったら、みんなで鬼ごっこだよ!」

星川結
「鬼ごっこって、包丁で追い回すのは勘弁してくれよ…」

仁さんの趣味は、リアル鬼ごっこである…捕まったら、命の保証はない!

十三宮勇
「東京と敵対する軍閥の二代目が、当然のように国教会の家にやって来るなんて、
いつ見ても不思議な光景ね」

十三宮聖
「友愛の証ですよ」

何か特別な事があるわけではないが、結と過ごす時間が、少なくとも楽しかったのは確かだ。

星川結
「なあ相棒、あたいって、前よりも可愛くなっただろ?」

十三宮
「さあ、今まで通りじゃないの?」

星川結
「可愛くなったって言ってくれよ!」

十三宮
「あーはいはい、結は可愛いなあ」

星川結
「いえ~いw」

十三宮
何はともあれ、彼女の無邪気な笑顔を見られる事に悪い気はしない。

星川結
「次は何して遊ぼっか?」

十三宮
「まだ遊ぶのかよ?もう疲れた」

星川結
「じゃあさー、なんか話そうぜw」

十三宮
「ああ、そうしよう」

星川結
「話題はお前が考えろw」

十三宮
「そうだなー」

姉さん達もいるし、前から気になっている事を聴いてみるとするか。

十三宮
「そもそも十三宮家って、一体何者なんだ?」

星川結
「確かにお前の家族って謎多いよな。苗字からして怪しいしw」

よくよく考えてみれば、私を拾ってくれたこの家について知っている事は少なく、
教会と関わりが深いらしいとか、そういう程度にしか分からない。
こういう話は、一家の当主である聖姉さんに聴くのが手っ取り早いだろう。

十三宮聖
「あら、なんのお話をされているのですか?」

十三宮
「姉さん。前から気になってたんだけど、姉さん達の先祖はどんな人なの?」

十三宮聖
「私達の御先祖は、預言者です^^」

十三宮
「え?」

星川結
「日本語でおk」

十三宮聖
「天主教には、旧教・正教・新教のほかに単性論など幾つかのグループがありますが、
その中の一つに『蛇使い派』という方々がいました。
彼らの教えは、遠くギリシャからシルクロードを通り、天竺(インド)を経て、日本国に伝わりました。そして、それを今に受け継いでいるのが、私達十三宮家なんです」

十三宮
「蛇使い?どんな人達だったの?」

十三宮聖
「異教…つまり、天主教以外の宗教にも関心が深く、魔術の探究などを行っていました」

星川結
「なるほど!つまり蛇を召喚して戦ってたって事だな?」

十三宮聖
「まあ簡単に言うと、そういう事かも知れませんね(笑)
現代の宗教学では、オカルティズムって呼んだりします」

十三宮
「でもそれって、教会の中じゃ仲間外れだったって事じゃないの?」

十三宮聖
「仰る通りです。さすがお姉ちゃんの弟、賢いですね^^」

わーい、姉さんに褒めてもらえた(^_^)

星川結
「おい姉貴、あたいもなでなでしてくれよ~!」

十三宮聖
「はいはい、結ちゃんもいい子ですね^^」

星川結
「わ~いw」

十三宮聖
「私達の信仰は、ローマ(旧教)やコンスタンチノープル(正教)の教義と異なるだけでなく、
我が国を治める方々からもご理解を頂けず、昔から迫害を受けておりました」

十三宮聖
「とりわけ、軍部によって国家神道が強制された昭和時代や、
反対に宗教が禁止された人民共和国時代には、正統派の教会に属する方々を含め、
多くの信徒が殺されました」

十三宮聖
「私達の両親は、辛うじて七月革命を生き延びましたが、仁が生まれた後、
その使命を終えたかのように…」

十三宮
「そうだったんだ…」

十三宮聖
「残された私と勇は、幼い仁を抱き抱えながら、これからどうやって生きて行こうかと、
絶望に暮れておりました。あなたと出会ったのは、そんな時でしたね」

十三宮
にとって姉さん達は、絶望の中の希望だった。でも、それは…」

十三宮聖
「ええ、お姉ちゃんにとってのあなたも、同じような存在でしたよ。むしろ、
勇気をもらったのは私達のほうです。あなたと仁を立派な大人に育てるまでは、死ねないって」

星川結
「でも、飯を喰うには金が要るじゃん。それに、姉貴も勇姉ちゃんも、まだJKだろ?」

十三宮聖
「父なる天主のため、そしてあなた方のためなら、学校に通いながら働く事くらい、
なんともありませんよ。それに時代も大きく変わりました」

十三宮聖
「新たに誕生した日本帝国の政府は、天主教を国教として保護し、
私達もその一員に加えて頂く事ができたんです」

星川結
「つまりあれか?国からお金を貰えるようになったって事か!」

十三宮聖
「…まあ、そういう事ですね(笑)」

十三宮仁
「二人とも、お風呂が湧いたよ!一緒に入ろう^^」

星川結
「おう、もうこんな時間か。今行くぜ!」

十三宮
「…」

十三宮仁
「あれ、どうかしたの?」

十三宮
「何だか最近、一緒に入るのが恥ずかしくなって来たような…」

星川結
「お、もしかしてあれか?『性の目覚め』ってやつかw」

十三宮
「知らん!」

十三宮仁
「めぐちゃんの想い、受け取ってくれないの?だったら…刺しちゃおっかなー★」

十三宮
「わ…分かった!なんでも言う通りにするから、命だけは赦してくれ((((;゚Д゚))))」

十三宮仁
「ありがとう!殺したいくらい大好きだよ!んふふふふ…あははははははっ★」

十三宮
「結局死ぬのかよ!」

こうして私は、永遠に彼女だけの物となった…いや、一度言ってみたかっただけですごめんなさい。

羽津

星川結
「おい相棒、さっさとあたい様の体を洗ってくれw」

十三宮
「自分でやれよ、もう…」

十三宮仁
「うふ…二人がいてくれて、めぐちゃん凄く幸せだよ^^」

当時の私達にとっては、崩落する米国の巨大ビルも、空爆されるアフガンの山脈も、
所詮はテレビの中、海の向こうの出来事に過ぎなかった。
日本国内、少なくとも自分の周囲では、平和な日常がきっとこのまま、ずっといつまでも、
変わらずにあると信じていた…いや、信じたかっただけかも知れない。

星川結
「あたいら三人は『永久同盟枢軸国』だからな!死ぬまでずーっと一緒だぜw」

十三宮
「死ぬまでお前の体を洗い続けなきゃいけないのか…酷い同盟だ」

十三宮仁
「死ぬまでじゃ駄目!死んだあとも、ずっと一緒だよ!」

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